院長のとっておきの話

いわゆる矯正治療といわれる治療

矯正治療に長く携わっておりますが、矯正治療といってもいろいろなやり方があるようで、当院にトランスファーで来られる患者を見ていると、これは矯正治療といってよいのだろうか、むしろやらなかったほうがよいのではないかと思ってしまうケースもあります。

以下は、矯正治療と呼ばれる治療(?)についての私見ですが、やってはいけない、もしくは治療をスタートする前に良く考える必要があると思われるケースをあげています。


1.やたらに上下の歯列を横に広げる

2.やたらに下顎を装置で前に出し成長を促進させるという行為

3.不安定な咬み合わせを造らない

4.関節の状態、下顎の不安定な状態を矯正前にチェック!!

5.顔を良くみる。下顎の傾きには特に注意

6.上下顎の成長管理は早めに。ケースによりますが、6~8才頃より顎の成長を考え経過をみて2次治療に移っていく。

7.歯を口の中で並べるのは12才臼歯の配列も良く考えて行う。あまり早く歯を並べだすと治療は長くなる。

最近、健康のために飲んでいたサプリのせいで、かえって健康を損なってしまったというニュースが報道されていますが、矯正治療でも、治療をしたためにかえって顎関節の状態を悪くしたり、歯の健康を害してしまうことがあることを知っていただきたいと思います。そこで、今回はやってはいけない治療(?)をされた例について紹介します。

#顔


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こちらの患者さんは、11歳0ヶ月の時に当院に初診に来られました。
すでに別のクリニックで治療をしていて、装置が入った状態でした。

#口の中
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一見、よさそうに見えるかもしれませんが、実は彼女には、左上犬歯が横に生えてしまっているという問題がありました。しかし、その状態のまま治療をしたために、当院を訪れた時には犬歯が1番の歯を食べてしまっていました。

食べてしまうとはどういうことかといいますと、犬歯の影響で、1番の歯が吸収されてしまったため、歯根がもうほとんどなくなっていたのです。パノラマを見ると、横になった犬歯がしっかりと写っています。

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左上一番の歯は歯根が吸収されている状態です。すぐにでも抜歯が必要です。

しかし、最もダメージが大きかったのは、彼女の顎関節!!

#左右 condyleそしてeminenceの変形
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#MRI central cut

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まだ11才の若さですが、両側円板が完全にズレてしまっていたのです。
これは、今後の彼女の下顎の大きさ、成長がストップすることを意味します!!

早急に手を打ってあげなければなりません!!

そこで、当院での治療を開始しました。11歳2か月の時です。

以下は抜歯後すぐの写真です。抜いた後に犬歯が見えています。
抜歯した前歯に歯根はありません。犬歯に装置をつけて引き出し1番の代わりにします。


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治療開始時です。犬歯を引き出し装置をつけました。
下顎にはスプリントを入れてもらい、顎関節へのダメージを弱めるため
スプリント治療(顎関節治療)を同時に行っていきます。
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治療開始2週間後。引き出した犬歯の歯肉も落ち着いてきています。

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治療開始6か月後。スプリント治療により顎関節が安定してきたため、
上の歯と下の歯の間にすき間が出来てきました。これは改善しているサインです。

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このときのパノラマ写真です。危険な状態は脱しました。
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スプリント治療終了後です。
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ここからいよいよ装置を装着しての矯正治療です。この時当院では治療の予測を立てます。
これはとても重要です。

歯を動かす前に、どのような顔を治療後に得られるのか
コンピューター上で歯の動き、顔の成長を加味した予測を立てます。

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右は下顎の成長を予想したものです。(VTO)その成長は小さいままです。

以下は矯正治療前、治療中、治療後の顎関節の状態です。

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ほとんど下顎頭は成長していません。顎関節の中で円板をズラしてしまう治療は下顎の成長を抑制してしまうので顔に大きな影響を与えてしまいます。やたらな歯列の拡大は下顎の位置を不安定にも、この症例のように円板が完全にズレてしまう可能性があるので絶対ダメ!!

治療中なんとか工夫して顔への影響を最小限にすることが出来ました。

スプリント治療後と、矯正治療後の写真です。比べてみてください
【スプリント治療後】
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【矯正治療後】
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やってはいけない治療(?)をされた患者さんを、どうにか救えることができました。
歯も綺麗に並んでいます。

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2024年04月03日 12:33

顎関節の状態を整えれば、下アゴも健全に成長する

矯正治療は歯を並べるだけと思っている人にぜひ知っていただきたいのが、きちんとした矯正治療に欠かせない大切なポイントは「顎関節の状態の把握」だということです。

家を建てる時、土台が大事なことは誰でもわかっています。家が歯の並びとすれば顎関節はその家の土台です。建物を支える基礎と、建物本体の骨組みのどちらもしっかりしていなければ安定した家にはなりません。矯正も同じです。矯正治療で歯を並べる土台となるのは、顎関節です。下アゴの骨は一方に歯があり、他方の末端が左右の顎関節につながっています。ここにゆがみがあったら、上下の歯がきれいに並んでいるように見えても、その咬み合わせは不安定で機能的ではありません。
後で出てきますが成長期には顎関節の状態が下アゴの成長に関与し、その大きさ・形に影響してきます。

当院にこられる患者で、顎関節に問題のある人が本当に多いと感じています。以下の図をご覧ください。

【初診時】

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こちらはよく初診時に患者がみせる咬み合わせです。一見歯はよく咬み合っているように見えますが、咬み合わせの土台である顎関節がゆるんでいます。顎関節にはズレがあり不安定です。このような方にはスプリント治療を行い下顎(下アゴ)を安定させる処置をまず行います。するとこうなります。

【スプリント治療後】

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顎関節は安定しました。でも、上下の歯の咬み合わせは下の歯が植立している下顎自体後方に移動したため上下の歯の咬み合わせがズレました。顎関節のズレが大きい方ほど、顎位を安定させると上と下の歯の間に大きなギャップができます。

ここでいよいよ矯正治療が始まります。安定した関節で歯のフィット感を得るため、矯正装置をつけて、顎位がずれないように気をつけながら矯正治療を行い歯の並びと左右の顎関節を調和させていきます。

【矯正治療後】

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顎関節にゆるみがなく、口腔内でも上下の歯がよく咬み合いました!これこそが、顎関節と咬合のハーモニーです。ヒルサイドビュー矯正歯科の目標は、歯のフィット感が良いだけでなく顎関節の安定性も得られるような噛み合わせを確立することです。参照ページ(2)アゴの関節と歯並びの調和


さて、顎関節を治療することで、とてもよい効果をもたらしてくれることがあります。下アゴが後退している患者さんのアゴの成長が改善した例を紹介します。

以下の患者さんは、10歳のときに当院に初診にみえました。下顎の後退と、上の歯に前突がみられました。これでは食事をすることも話をすることも不便があることでしょう。

【初診時】

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このときの顎関節の状態です。顎関節は肉眼では見えませんが、CTやMRIを使うとその状態を正確に把握することができます。以下はCTの画像です。

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両顎関節ともMRIの情報から円板の転位の存在が解っています。こちらにスプリントを用いて顎関節の状態を調整します。以下が一次治療終了時で一年半後の状態です。

【一次治療終了時】

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上顎の成長もコントロールされていますが、下顎はスプリントにより下顎の両端にある下顎頭はCTより関節に収まり下顎の成長も良くなっています。彼女の下顎は前に出てきて、口の中での咬み合わせも改善しています。この治療での大切な事は早めに顎関節の状態を改善していることです。

こちらが、矯正治療後の患者さんの写真です。

【矯正治療終了時】

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下顎が治療中もしっかりと成長しています。適切な矯正治療は、下顎の成長をサポートし、美しい顔立ち形成のお手伝いをすることができます。健全な左右の顎関節が存在し、それらと調和する歯の咬み合わせがあってこそ、顎関節と咬み合わせのハーモニーは成り立ち、その咬み合わせは持続をしてくれるのです。

この顎関節ですが、何も自覚症状がない成人の間で、約30%の人がアゴの関節にずれがみられ、関節に音がする、ひっかかる、痛むなど何らかの症状があった、又は現在あれば、100%円板のずれがあります。しかも、子どもの時代にすでにこの円板のずれはスタートしている可能性があり、下アゴの成長に影響を与えるため、下アゴが小さくなったり、開口や顔面非対称の原因となります。

2024年03月13日 08:39

48歳のお父さんも驚いた! 矯正治療で変わった息子の顔立ち

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このお子さんはアメリカからのトランスファー患者で、11歳1ヶ月の時に初診にみえました。
アメリカでは受け口の一次治療(?)を受けていて、装置を装着した状態でした。

【初診時】


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当院で記録を取ったところ、顎関節(TMJ)に円板のずれが少しありましたので、装着していた下顎6番のバンドとリンガルバーは外し、スプリント治療で顎関節を治療しながら、下顎の成長がちょうどよい時を待つことにしました。

13歳になった時、MRIを見て下顎の成長がアクティブになり始める頃合いで矯正治療をスタートしました。Bimaxといって上下顎前歯の前突がありましたので、小臼歯の抜歯を行い、歯並びと顔立ちを整えながら、下顎の反時計回りの回転を用い、chinが前方に出てくる治療をしました。下顎が延びてきたときに、上顎の臼歯が挺出するのを防ぐためヘッドギアを寝る時に装着してもらいました。矯正が始まる前のスプリント療法で、顎関節(TMJ)の調整をしていますので下顎は反時計回りの成長が十分に行われました。16歳で治療が終了したとき歯の並びもそうですが、とてもバランスのよい顔立ちになっていました。


【歯並びの変化】
 (術前)


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 (術後)


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【顔立ちの変化】
 (術前)


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 (術後)


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術前術後の写真を見比べた時、お父さんが驚いてこうおっしゃいました。
「私でもできますか?」

今はMRIによってある程度の成長が予想して見られるようになってきました。そのため当院では、下顎の成長がアクティブな時をねらって矯正治療を始めています。成長期を過ぎた大人になってからではできない治療があります。お子さんの矯正治療をお考えの方は、一度チェックを受けることをおすすめします。

2023年12月09日 23:32