矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について
1. 口腔衛生
治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。当院ではむし歯予防にホームケア、プロフェッショナルケア、フッ素塗布の3本柱を実施しています。







このようにむし歯予防に取り組んでいますが、かかりつけの歯科医院での定期的な検診も薦めています。
また、歯が動くと 隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。多くは歯と歯の間の普段見えない部分なので、歯質の削る量を最小限に抑える治療のチャンスとも言えます。
2. 顎関節症
治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。当院では初診時に顎関節の診査を行ない、顎関節を限局的に撮影できるCBCTを用いて検査します。顎関節に症状がないのが「正常」なわけではありませんので十分な診査が必要です。必要に応じてMRI検査を追加します。治療に入る前に顎関節の状況を把握できるので、現在の状態だけでなく、将来起こり得ることも説明しています。



3. 歯根の吸収と歯ぐきの退縮
歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
最近はワイヤーの性質が大変良くなり、過度な力が歯にかからず歯への負担が減り、歯根の吸収は“まれ”なことになったと感じています。歯ぐきがやせて下がるのは成人で起こりやすいですが、矯正治療前の歯槽骨の状況にもよります。歯列から飛び出て歯ぐきがやせて下がっている歯を矯正治療で歯列内におさめると、下がっている歯ぐきの改善が認められることもあります。反対に入りきらない歯を無理に歯列におさめようとして歯列を広げると、歯ぐきはやせて下がる可能性があるので抜歯が必要になることがあります。

4. 骨と癒着している歯
ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。癒着している歯を成人になるまで放置すると治療が難しくなります。子供の時に起こると成長や周りの歯に悪影響を与えることがあります。一方が生えしばらく経つのに反対側がなかなか生えて来ないことがあったら注意が必要です。

5. 歯の神経の壊死
ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。歯の中に神経がありますが、歯にむし歯が出来て、それが原因で神経に炎症や壊死を起こすのはご存知のことと思います。それ以外に外傷でも同じことが起こります。特に前歯は突出度によって物にぶつけたり、スポーツ競技でボールや競技者のひじが当たることが起きやすいです。奥歯では歯ぎしりやくいしばりで自分の噛みしめる異常な力が長期にかかっていることがあります。以前に矯正治療をされ再治療が必要になった状況があると、再度の矯正治療が引き金になって歯の神経が障害を受けることがあります。
6. 顎の成長発育
顎の成長発育により咬み合わせや歯並びが変化する可能性があります。特に下顎前突で下顎が成長とともに伸びるタイプは成長が終わるまで成長を観察する必要があります。また顎が横にずれているタイプも要注意です。顎関節が影響している場合もあります。どちらも矯正治療を始める前の注意深い診査が重要です。
7. 矯正治療の痛み
最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2週間で慣れることが多いのですが、痛みには個人差があり、非常に敏感に感じる方とそれほど痛みを感じない方もいます。痛みを敏感に感じるタイプの方も治療が進むにつれ緩和されていきます。
8.
歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。
9.
装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
10.
治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
11.
様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
12.
歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
13.
矯正装置を誤飲する可能性があります。
14.
装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
15.
装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
16.
装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
17.
治療後に親知らずが生えて、萌出方向によっては臼歯の配列が影響を受け、凸凹が生じる可能性があります。
18.
矯正歯科治療は一度始めると元の状態に戻すことは難しくなりますので、治療計画を説明されたとき、良く理解出来なかった場合、遠慮しないで再度確認してください。
日本矯正歯科学会 インフォームドコンセントを参考に加筆、作成しました。