今まで歯の並びと顎関節そして下アゴの位置の密な関係、更に顔への影響を述べてきました。また成長期では顎関節は下アゴの成長に大きく関わっているので、成長を促すために必要に応じてスプリントでアゴの安定化を行ない、不必要に歯を動かすことはしないと説明しました。しかし上アゴと下アゴの位置関係に異常がある場合は成長期の前期(6~9才頃)に介入しなければならない治療があります。どのような場合に介入が必要か?次に述べたいと思います。
反対咬合
前歯は正常では上の前歯が下の前歯より前にありますが、これが逆に下の前歯が前にある咬み合せを反対咬合といいます。単に歯の位置の問題である場合と上アゴと下アゴの骨格の位置に問題がある場合があります。後者の骨格パターンの問題は早期に治療した方が後に起こるの成長パターンにも良い変化を起こす可能性があるので、早めに治療に入りたいです。
下の治療前後の写真を見てください。治療前下の前歯が上の前歯を覆い隠すように前に出ています。一見、下アゴが前に出ているように見えますが、顔を良く見ると下アゴが大きく前に出ているというより上アゴが後退して劣成長に見えます。鼻翼が後退しているため下アゴがいわゆるしゃくれている状態です。上アゴと下アゴの成長時期は異なり、上アゴの成長は12才頃に終わり、下アゴはその後も続きます。上アゴの成長の誘導が可能な時期は早く終わってしまいます。急ぐ必要があります。
治療前は下の前歯が上の前歯を覆い隠すように前に出ています。その関係は奥歯まで続いており、臼歯部も下アゴの臼歯が上アゴの臼歯の外側にある交差咬合になっています。乳歯列期でも顎関節に問題がある場合があります。この時期でも顎関節を含めた検査は必要です。上アゴが狭いので、上アゴを横に拡大し、上アゴの骨結合部を緩めて上アゴを前方へ引き出しました。前歯の関係は歯の移動は行なったいませんが、上の前歯が前に出ています。鼻翼の横は前方へ出て頬もふっくらしています。鼻尖も前方に出て子供らしい顔になりました。
初診時左顎関節にすでに中等度の変形が認められたのと、顎関節に負担のかかる咬み合せであったので、まずスプリント療法を行い、下顎頭の変形をCBCTで改善を確認した後、骨格の矯正に進みました。
装置としては上アゴに急速拡大装置(急速に拡げる必要があります)とフェイスマスクで前方に牽引しました。下アゴにはスプリントを装着し、急激な咬み合せの変化から顎関節を守る目的で装着を継続しました。治療期間は1年9ヶ月、治療費は35万円(税別・当時)でした。
- この時期の一般的に治療上のリスクとして、カリエスの発生、歯肉炎、顎関節症の発現をよくあげていますが、本症例では顎関節の骨変形を改善しました。
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本症例のまとめとしては、矯正治療のタイミングは症例によって異なり、骨格パターンに問題がある場合は早めの対応が不可欠です。この時期に治療できれば成長を誘導でき、治療の可能性が広がります。また表面には出てきませんが左顎関節にすでに中等度の変形が認められました。上アゴに目が行きますが、下アゴが正常に成長するのを見守ることも同時に行なっています。どの時期に矯正治療を行なうにしても顎関節を含めた診査・診断し、患者さんの状況を十分に把握し、適切な時期にその時期にしかできない適切な治療を行う、将来歯並びを行なう矯正治療は必要な場合が多いですが、それまではアゴの成長を見守ることに主眼をおきます。