院内だより

目に見えない大切なもの

9月の禅語に清風拂名月「せいふうめいげつをはらう」というものがあります。秋の夜空には明るく輝く月がかかり、地上には涼しく秋風が吹くという情景を詠んでいるのだそうです。暑い夏も終わりを迎え、清清しい風が秋の気配を感じさせてくれます。

さて、皆様はサン=テグジュペリの「星の王子様」を読んだことがありますか?児童書ではありますが、その内容はとても奥深く、実は大人向けに書かれたのだと聞いたことがあります。私はキツネが出てくるエピソードが一番好きなのですが、そのキツネが「大切なものは目に見えないんだよ。」という場面があり、なるほどなあ、キツネのくせにえらいことをいうなあと感心したものです。

ところで、矯正治療でも大切なものは目に見えないようで、今月からの院内便りでは、これまで目に見えなかったとても大切なことを数回にわたってお伝えしようと思います。

■目に見えない大切なものとは・・・

ずばりアゴの関節のことです。アゴの関節(顎関節)は、耳の前約1㎝のところに有ります。下の図1をご覧下さい。下アゴの一方に歯があり、もう一方は関節とつながっていることが分かりますよね。そう、顎関節は口の中の歯並びと切っても切れない関係にあります。図2を見て下さい。理想的な顎関節は、下アゴが関節に入っている部分(これをコンダイルといいます)は丸みを帯びていて、口の中で上下の歯が咬んでいる時はディスクを伴って、関節の中でずれることなく、図3のように最上方に位置しています。しかし、ディスクが何らかの要因でずれ始めると、コンダイルの変形・磨り減り、下アゴの位置の変位(顔がゆがむ)などが起こるようになります。また、下アゴの成長を司っていますので、小児期に起こるとアゴの成長が抑制されてしまいます。矯正治療をする前には、この顎関節が正常な位置にあるかどうかを確認すること、そして治療中もこの顎関節をずらすことのないように歯を動かすことを、気をつける必要があります。


顎関節に問題があると、次のような弊害が現れる可能性があります。
・口の中での歯並びを整えるのが困難になる
・あごの成長が抑制される          
・咀嚼機能が低下する
・顔がゆがむ(左右一方の関節に問題が起きている場合は顔面非対称、両方の場合は開口状態)
・歯の磨り減りが進んで歯が平らになってしまう。成人においては歯が割れる場合もある
・歯肉が退縮しやすくなり、特定の歯に力がかかるため歯周組織の負担が増加し、細菌による歯周炎などを併発するとその進行を早める

ずれてしまった顎関節が与える影響は、歯やそれを支える歯肉・歯槽骨、そして顔の形にまで及びます。人間の生活においてとても重要な機能を持つ顎関節。しかしその重要性についてはこれまでブラックボックスとされ多くを語られてきませんでした。でもこれからは違います。これまで見えなかった部分が三次元の状態で見えるようになったのです。次回の院内便りでは、見えるようになった顎関節についてお話をします。お楽しみに。

2004年10月01日 16:18

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