院内だより

当院スタッフによる外科矯正ルンルン体験記

2009年9月

当院で歯科衛生士をしております成富です。この夏(2009年8月)外科矯正を受けました。
これから治療を受ける方に参考になればと体験記としてまとめてみましたので、是非読んでください。

外科矯正とは上顎あるいは下顎に骨格的な大きなずれがある場合、歯の移動だけでは咬み合わせが改善できないと判断した時、骨格を外科的修正を含めて行なう矯正治療です。顎の過成長あるいは劣成長の遺伝的要素または骨の発育途中に外傷・炎症・癖などの原因で、大きさやバランスの崩れてしまった顎の骨を、手術により位置の修正を行います。
骨格のずれを修正しないで歯の並びで咬み合わせを直そうとすると、咬み合わせにずれが残ってしまったり、安定した咬み合わせが得られず、歯や顎関節に大きな負担をかけてしまうだけでなく、顔立ちがかえって悪くなってしまうこともあります。ですから骨格のすれが大きい場合は外科矯正を行うことで、咀嚼や発音などの口腔機能の回復と機能的に優れたバランスのとれた咬合を得る事ができます。それが顔貌の審美改善にも繋がるんです!外科矯正を終えて帰って来た患者さん達の顔立ちがとても良くなっているのにいつも驚かされますし、スタッフとしてサポート出来たのをうれしく思います。

外科矯正を行う患者さんはまず術前矯正(手術前の矯正治療)を行います。骨格的なずれの大きい患者さんは歯がデンタルコンペンテーションと言って、上下の歯が骨格のずれを補正しようとして傾いてしまっているので、歯槽骨の中の良い位置に歯を納めるのが術前矯正です。術前矯正をすすめると口腔内に骨格のずれが現れ、顔立ちの気になる部分がかえって強調されてきて、矯正を始める前より顔立ちがかえって悪くなった感じがしますが、手術でそれを直すので、これが美人度(ハンサム度)アップのサインです。
術前矯正と平行して、手術していただく病院に初診に行き、次に術前検査を受けます。問題がなければ入院し手術を行うことができます。一方、当院では手術直前に記録をとり、
具体的な手術での骨の動かし方と顔立ちの変化を検討し、執刀医と最終協議をします。それを基に手術後の顎を固定するためのスプリント(透明の薄いプレートのようなものです)を作成します。そして手術直前に、術後の顎を固定するためのフックをワイヤーに何個かつけます。これで準備完了です!手術直前に風邪をひいたりすると手術は延期になってしまうので、体調管理が重要です。
外科矯正と一言でいっても、上下の顎を前に出したり、後ろにさげたり、横にすらしたりと患者さんによって手術内容は異なります。私は顎関節症で関節の骨が小さくやせてしまい下顎が後退しているため、下顎を前に出す手術を行いました。以前から下顎がない事を気にしていたので、待ちに待った手術でした!
手術前日から入院しますが、主治医や担当看護師、麻酔医から詳しく説明を受けたり、口腔内の清掃をしたりで意外と忙しいです。この日は21時以降、飲食禁止!
手術当日、術衣に着替え、7時に胃液分泌を抑える薬を飲み点滴をし、いよいよ手術!
手術室に入ると気合の入った看護師さん達が迎えてくれます。待ちに待った手術とはいえ不安でいっぱい…頼もしい手術スタッフを見て1回気持ちが落ち着きます。手術は全身麻酔下にて行います。手術計画に従って顎の骨を移動させた後、顎間固定用のスプリント(当院で作成したものですね)を装着してその日は1日、HCU(high care unit:高度治療室。ICU(集中治療室)と一般病棟の中間に位置する病棟で、ICUよりもやや重篤度の低い患者を受け入れる治療施設)に一晩過ごし、朝を迎えます。手術台に乗って点滴から麻酔を導入したところまでは、覚えているのですが気づいたらHCUに私はいて手術は終わっていました。本当にあっという間です。麻酔から目覚めた時はほとんど痛みがありませんでした。時間が経つにつれ痛みが出てきたら自分で、左手に持たされたボタンを押すと少量の痛み止めの薬を点滴から追加することができます。薬が入りすぎないようになっているので、安心ですし、看護師さんを呼ばなくていいのでとてもスムーズです。この日は手術が終わりほっとしたのと緊張の疲れで終始、寝ていました。
この時点の全身の状態ですが、①心電図・酸素濃度血圧計モニター(心拍・呼吸・血圧の状態を観察)②点滴(食事の代わりに水分と栄養を補う)③胃管(鼻から胃まで入っている管、飲み込んだ血液をきれいにすることで吐き気予防・改善をはかる)④翼状針ドレーン(傷に血液が溜まらないように排出するため口腔内に装着する管。腫れ、内出血を少なくする)⑤尿管カテーテル(膀胱に入っている管。尿が自然と流出され安静が保持できる)⑥酸素マスク⑦フェイスマスク(腫れや内出血を少なくするために顔の周りに装着する)がついています。沢山ついていますが、もう手術翌日には点滴とフェイスマスク以外は全て外れてしまいHCUから一般病棟へ移ります。
術後は顔や首に腫れがあり、手術の刺激により部分的に感覚が鈍くなったり、ピリピリと痺れがありますが時間と共になくなります。
そして手術翌日からは顎間固定が始まります。前回も何度か出てきたこの顎間固定とは、上下の歯列をスプリントを介してワイヤーで縛って顎を固定することで、手術部位の安静を図るもので、ちょうど骨折の際のギブスの役割を果たしています。上下の歯をきっちり固定するということは…その間、会話が出来ないのはもちろん、通常の食事は摂れないので流動食になります。流動食って一体どんなものなんだろう?出てきたのは重湯・味噌汁・オレンジジュース・牛乳、そしてテルミールという高カロリー栄養食。このテルミールは小さいのに1本で200キロカロリーもあるんです。味は濃厚なバナナオーレの様で意外と美味しい!他にも珈琲、コーンスープ、麦茶など様々な味が楽しめます。また、固定中はいつもどおりに歯磨きが行えません。そこで病院で貸し出してくれたウォーターピックという水圧で歯の表面と粘膜の汚れを綺麗にする器械を使用します。顎間固定期間は患者さんの様態によって異なりますが通常は1週間だそうです。この1週間の間にフェイスマスクと点滴が外れます。そして顎間固定を解除し抜糸、通常の食事摂取が可能となった時点で退院となります。最初は口がうまく開けられないので開口訓練を行い徐々に開けられるようにし、食事も柔らかいものからスタートです。

テルミールとウォーターピック
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写真はまだ腫れがありますが以前より整った横顔になっていますよね?下顎がでたことにより憧れの顔貌を手に入れることができました!鏡で見るたびに嬉しく思います。入院中、ホワイトボードで会話をしたことや退院後何を食べようかなど考えた事も今では良い思い出です。この1週間は大変でしたが、それ以上の価値は十分にあったと思います!
また、外科矯正をすると顎関節に負担がかかります。なので術前に顎関節の状態をチェックし、スプリントを用いて良い状態にしておかなければなりません。良い状態にすることで本来の下顎のずれの大きさや、上下の咬み合わせのずれの程度もわかります。後戻りを防ぐためにも顎関節の状態を見て外科矯正を行う事が大切です。私の術前術後の顎関節のCTですが変化が少なく、大きなダメージを受けていないことがわかりました。当院では必ず外科矯正の術前術後に顎関節のCTを撮ります。目に見て顎関節の状態がわかるので安心ですよね。
私は矯正治療を学生のときに他院で始めたのですが、こちらに歯科衛生士としてお世話になってから治療もお願いすることになりました。他院では外科矯正なしでの治療計画ですすめており、歯を動かす方向も外科矯正をするのと違うのと、顎関節症の治療もちゃんとしなければならず、ほとんど最初から治療のやり直しになりかなり遠回りになってしまいましたが、急がば回れの言葉どおり、きちんと治療が出来て今は大変満足してます。
外科矯正について、どのようなものか知っていただけたでしょうか?興味のある方や、これから手術を受けられる患者さんの参考になれば幸いです。

術前
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術後
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2009年09月01日 10:00

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